パリの店:刺繍専門店 Le Bonheur des dames

 フランスでは、プレゼントに手作りの品を作る人が多いそうだ。刺繍もフランス人に愛されている手芸のひとつ。繊細なフランス刺繍は、昔から愛されてきた。

 今回は、刺繍アーティストのセシル・ヴシエールさんの刺繍専門店ル・ボヌール・デ・ダムを訪れた。

 セシル・ヴシエールさんは、オートクチュールの世界で働いた後、1979年に自分のショップを開き、刺繍アーティストとして活躍している。
 パリの2軒以外にも、ブルターニュで7月と8月の夏だけ店を営業している。
 1997年にオープンしたパリで2つ目の店は、廃線となった鉄道の高架下ディアデュク・デ・ザールにある。数々の工房や芸術関係のショップが並ぶディアデュク・デ・ザールにふさわしい、素敵なショップだ。
 明るく広々した店内には、美しい刺繍作品が所狭しと飾られている。軽快な音楽がかかり、訪れる人を優しい気持ちにさせる雰囲気である。
 セシルさんも店にときどき顔を出すそうだが、この日は店員のヘレーヌ・チボーさんに話を聞いた。

-この店は、刺繍に関係するものだけですか?

 刺繍糸や布などを扱っていますが、刺繍といっても、刺繍糸だけでなく、ビーズなどさまざまなアクセサリーも加えることもあります。ですから、そうした小物もそろえています。アクセサリーをプラスする刺繍は、フランスだけでなく、アメリカでも一般的です。また、ネックレスやブレスレットを作るビーズなども扱っています。さらに、パッチワークの布もそろえています。

-すばらしい刺繍ですね。

 ここに飾ってある刺繍作品は、ほとんど全てセシルさんがデザインしています。彼女が模様をデザインし、それを私たちスタッフと共同で刺繍して仕上げます。また、刺繍キットという形で商品化しています。

-飾ってある刺繍は売り物ではないのですか?

 販売はしていません。見ていただくだけです。ここに来たお客さんは、ディスプレイされた刺繍を見て、どれを作るか参考にするようです。

-どのくらいの種類ですか?

 大変な数です……。400ぐらいはあるでしょうか。新しいデザインが次々と生まれますから。

-それでは、ディスプレイも変わるのでしょうか。

 ほとんど1ヶ月ごとにディスプレイを変えます。季節にも合わせて、春は春らしく、クリスマスシーズンはクリスマスカラー一色になります。

-フランスで刺繍は人気なのですか?

 フランス刺繍は伝統があり、フランス人は刺繍が好きですね。

-パリジェンヌが刺繍をするイメージはないのですが。

 パリジェンヌも刺繍をしますよ(笑)。少数ではありますが、男性も刺繍をします。ここ数年、手作りが流行っていて、刺繍をする人が増えています。洋服を縫ったり、小物を作るのが人気なのです。なかでも、クッションやカーテンといったインテリア小物を作る人が多いですね。

-クリスマスのプレゼントに刺繍小物を作る人がいると聞いたことがありますが。

 そうですね。また、パーティ用に「Bienvenu(ようこそ)」などと刺繍したナプキンでテーブルセッティングする人もいます。そうした小物やデコレーションには、リボンがよく使われます。リボンの中央部分に刺繍をし、カーテンにつけたり、バックのアクセントにしたり。やや幅の広いリボンは、テーブルセンターにします。

-手作りが流行っているのは、家で過ごす人が増加しているからでしょうか?

 家に引きこもるようになったというより、自由時間が増えたからでしょう。

-エレーヌさんも刺繍が好きなのですね。

 大好きです。手芸が好きですね。刺繍は母が教えてくれました。一日中刺繍をしますよ。

-一日中? 疲れませんか?

 いいえ、全く(笑)。

-フランスでは学校で刺繍を習いますか?

 遠い昔は学校で教えていましたが、今はないですね。裁縫を教える女性教師もいるようですが、それはとても稀です。裁縫は義務ではなく、好きな人だけ習うというか。とにかく、義務教育の中には含まれていません。

-刺繍を習う教室などはあるのですか?

 刺繍教室はそれほど多くはありません。普通は刺繍キットを買って始めます。最初は小さな作品からスタートします。これらのキットは、自分で簡単にできるよう工夫されていて、キットに入っている説明を見ながら、自宅でできます。わからないところは、私たちスタッフが教えます。

-キットは選択肢が豊富ですね。

 キットで買う人が圧倒的ですね。布と糸など必要なものがすべてセットになっているので、とても簡単です。

-キットはこちらのオリジナルですか?

 オリジナル以外にも、いろいろ取り揃えています。フランス製、ドイツ製、デンマーク製の刺繍キットです。日本人の刺繍作家のキットもありますよ。また、イギリス製の毛糸の刺繍タピスリー・キットもあります。

-どのタイプが売れますか?

 よく売れるのは、キッチン用品の模様です。特に、赤い糸の作品が売れますね。白地に赤の刺繍が人気です。それから、アルファベット模様も好まれます。白い布に刺繍するシンプルなタイプが売れています。

-フランス刺繍というのは?

 クロスステッチが基本です。キットの布には下絵は描いてありません。方眼紙に描かれた模様を参考に、糸を刺します。

-自分でデザインする人はいますか?

 あまりいませんね。難しいし、時間がかかりますから。

-店内にルサージュの刺繍学校の案内があったのですが。

 ルサージュはオートクチュールの刺繍として有名です。とても美しい刺繍で、こちらにも少しおいています。

-フランスには刺繍アーティストが多いのですか?

 かなりたくさんいます。だんだん増えています。刺繍のデザインをするには、美術学校でデッサンを勉強し、刺繍の技術を学んで独立する人が多いようです。私はデザインをしようと思ったことはありません(笑)。刺繍のデザインは難しいですから。

-どのようなお客さんが多いですか?

 高齢者から流行に敏感な若い人まで、実にさまざまです。人によって買うものが違うので、面白いですね。この店は品揃えが豊富なので、どのようなお客さんでも満足してもらえるはずです。日本人のお客さんもときどき来ますよ。

 パリには、生地やボタン、毛糸といった専門店が少なくない。これらのショップは、日本の手芸店よりもやや洗練されているように思う。
 このところ日本では、編み物や刺繍といった手芸が流行しているが、その現象は、日本に限ったことではないらしい。
 殺伐とした世の中だからこそ、温かみのある手作り作品を求めているのかもしれない。
 店名のル・ボヌール・デ・ダム “女性の幸せ”が示すように、優しい愛にあふれているショップには、女性客が絶えない。

Le Bonheur des dames.jpg


17, av. Daumesnil 75012 Paris

『専門店』「世界の専門店拝見 こんな店・あんな店」2007年5月