フィンランドのテキスタイル ヨハンナ・グリクセン

 国際都市パリには、さまざまな国の特色を生かしたショップがたくさん存在している。フィンランドのテキスタルデザイナー、ヨハンナ・グリクセンさんのショップもそのひとつ。北欧デザインの生活小物は、パリのこだわりマダムを魅了しているようだ。

今回はグリクセンさんにお話をうかがった。

-このお店には変わったオブジェが多いですね。

 クラフトが大好きで、私のテキスタイに合うモノをそろえています。工芸の伝統的手法で作られた、ハンドメイドで、しかも品質のいいことを基準にしています。

-フィンランドの工芸品ですか?

 ええ。吹きガラス、陶器、キャンドルなど、フィンランドにはすばらしい伝統工芸がたくさんあり、いまでも受け継がれています。どうやって使うのかわからない妙なモノも含め、興味深いものが多数あります。その工芸品をみなさんに紹介したいと思ったのです。いまでは使われないモノも見せたいのです。伝統工芸を残すことはとても大切なことです。

-日本でも、同じことがいえそうです。

 日本はもっと工芸品が生活に生かされているのではないでしょうか。伝統的なものは流行にマッチしない場合がありますよね。でも、伝統はずっと同じように受け継がれるのではなく、時代とともに変化していくのだと思います。時間とともに、別のものとなって残っていくのです。

-この木靴も伝統工芸のひとつですか?

 このような木靴は、昔、フィンランド人が履いていたものです。この店においてある木靴は、主に洋服を作っているフィンランドの若い女性デザイナーの作品です。これこそ、伝統的なものがモダンに変化したよい例だと思います。ファッションと伝統が融合しているのです。私も愛用していますが、底のつま先の部分が少し盛り上がっていて、とても履き心地がいいですよ。

-伝統工芸の魅力は何ですか?

 伝統工芸の素晴らしい技術に触発されますね。伝統工芸の、すでに確立された技術からアイデアを得て、いろいろなことに発展させていけるのです。幸い、フィンランドには、昔ながらの工芸技術を持っている人がまだ存在しています。でも、どんどん少なくなっていますが…。

-どのようにしてテキスタイルデザイナーになったのですか?

 フィンランドのクラフトスクールで2年間テキスタイルの基本を勉強し、その後は、仕事をしながら少しずつ学びました。8年前にヘルシンキにショップを開き、パリの店はオープンして4年半になります。

-なぜパリを選んだのですか?

 ヘルシンキはお客さんが限定されますが、パリには世界中から人が集まってきます。パリでお店を開くのは容易ではありませんが、より可能性にあふれています。なによりも、これらの工芸を紹介できることを誇りに思います。

-テキスタイルには、子供の頃から興味があったのですか?

 そういうわけではないですね。ただ、祖母が織り機を持っていて、私はよくお手伝いをしていました。彼女はプロではなかったのですが、楽しみで織っていたのです。祖母といる時間が長かったので、影響されたのでしょう。テキスタイルだけではなく、他の工芸にも関心があり、自分の手で作ることが好きでしたね。

-布を織るのは、大変なお仕事のようですが。

 手で織るのはとても時間がかかり、忍耐力が必要です、大変な仕事ですね。ですから、長い生地は機械で織っています。ただ、デザインのパターンは自分で織ります。パターンを職人に見せ、それを機械で織ってもらっています。でも、小さな作品、たとえばマフラーなどは手織りです。機械よりきれいに仕上がるからです。

-気が遠くなりそう…。

 テキスタイルはとても難しく、挑戦ともいえますね。技術面だけでなく、横糸と縦糸がどのような模様になるか、デザインを考えるのも難しいので、集中力が必要です。以前はこの店にも織り機をおいていましたが、あまりにもミスが多いのでやめました。人の出入りが激しく、中断されるとうまく織れないのです。織るには落ち着いた環境が必要です。フィンランドのショップでは、邪魔される心配がないので、そこで織っています。

-テキスタイルはフィンランドの伝統を意識していますか?

 私のテキスタイルが典型的なフィンランドかどうかはわかりません。これが伝統的なフィンランドのテキスタイルかと聞かれても、答えるのが難しいですね。私はフィンランドの伝統が大好きなので、どこかにフィンランドらしさが感じられるとは思いますが…。でも、他の国の文化も好きなので、フィンランドだけというわけではないでしょう。

-フィンランドらしさというのは、シンプルなデザイン?

 フィンランドにしても、スウェーデン、ノルウェー、デンマークにしても、デザインのシンプルさが、スカンジナビアらしさだと思います。ただ、私が花柄をやらない理由は、横糸と縦糸の直線模様から花柄を作るのが難しいからです。プリントなど複雑なテクニックを使えばできるのですが、あまり興味がないのです。

-デザインは、どのように生まれるのでしょう?

 ひとつのパターンから、次のパターンが生まれることが多いですね。もちろん、最初はどの糸を使うか、カラーはどうするか、どんな模様になるかを考えなければならないのですが。同じパターンでも色を微妙に変えれば、違う模様が生まれます。
 素材は、フィンランド産ではないのですが、コットンが多いのですね。フィンランドの素材、麻とウールも使います。これらを混合することもあります。化学繊維も利用しますよ。船の帆に使用する、丈夫で洗濯可能なポリエステルの生地でバッグを作ったりもしています。

-テキスタイルがいろいろな小物になっていくのですね。

 テキスタイルに興味があっても、それだけでは売れません。ですから、私のテキスタイルがどんな商品に適しているかを考えます。私一人のアイデアには限りがあるので、他の人の意見も取り入れ、一緒に商品化していきます。

-今は、パリとフィンランドの往復ですか?

 まるでシャトルのような生活です。フィンランドとパリは飛行機で3時間。空港へ行くことを考えると6~8時間はかかります。ですから、なるべく長期滞在するようなスケジュールにしています。今はパリの生活のほうに重心を置いていますね。まだショップが新しいし、やるべきことがたくさんあるからです。
 パリでは、お客さんと接するのが楽しみです。お客さんのリアクションを見て、商品の好き嫌いがわかるし、次の参考にすることができます。お客さんがアイデアやインスピレーションを与えてくれます。フィンランド人は、はっきりものを言わないけど、パリの人は表情ですぐわかりますから。

-フィンランドの生活は、パリと違いますか?

 フィンランド人は家の中で過ごすことを好むというのが大きな違いです。パリではバーやカフェで人に会いますが、フィンランド人は家に招待することが多いですね。みんな大きな家に住んでいるからかもしれませんが、自宅に招くのが好きですね。

-では、インテリアにもこだわりを持っているのですね。

 居心地が良くて、実用的なインテリアを重視しています。特に、キッチンが重要です。料理をし、食事をし、みんなで過ごす場所ですから。フィンランドでは、男女とも料理をします。男性は料理好きですが、皿洗いはあまり好きではないようですが…。

 フィンランドには、万物に神が宿るとか、自然を大切にするという考え方があるそうです。「フィンランド人は内気です」と笑うグリクセンさん。「日本人との共通点も多いのではないですか」とも言っていた。

Johanna Gullichsen.jpg


『専門店』「世界の専門店拝見 こんな店・あんな店」2002年5月