世界の軍事費の2日分で約600万人の命を救える

<G8サミット、残された課題は何か> NGOリーダーへのインタビュー(1)

 年一度の世界の祭ともいえるG8サミットが終わり、北海道・洞爺湖に静けさが戻って3週間。あそこで話されたことはなんだったのか、何をどう解決しようとしているのか、なにやらおぼろでさえある。そこで、市民の目線でG8への提言活動に取り組んだNGOフォーラムの環境、人権・平和、貧困・開発ユニットのそれぞれリーダーに、サミットの評価,残された課題、これからのNGOとしての取り組みについて話しを聞いた。第1回はNGOフォーラム「貧困・開発ユニット」リーダー、石井澄江(ジョイセフ)さん。 

  G8サミットでは気候変動が中心で、保健医療はなかなか注目されない。だから、「地球も命だが、人間の命も同じように大切」とつねに主張してきた。今回、国際メディアセンターでは、保健医療に焦点が当てられ、他の分野と比較して一番成果があったのではないかと思う。 

  ただ、ここで最も重要なのは、このG8で得た結果をいかに次にサミットが開かれるイタリアにつなげてゆくか、である。イタリアの市民社会との連携を強化し、G8の声明を着実に実施に移させ、それをモニタリングしていくことが求められる。 

  G8 の開催にあたっては、人・もの・金などに代表される莫大なエネルギーが費やされた。このエネルギーの効率性を上げる指標のひとつは、サミットの成果をいか に途上国へもたらすかだろう。現在、今回のサミットのNGO活動について見直し中であり、今後も政府と連携しながら進めていきたいと考えている。

 今年はミレニアム開発目標の中間折り返し年に当たり、9月24日には国連において評価のための会議が行われ、今年の後半には国際的な援助の量と効率に関す る会議が開催される。今後予定されているこれらの会議を踏まえ、NGOのアドボカシーを国際的な連携の下で進める必要があると思う。 

  2010年には日本のODAの中期政策が見直される予定なので、この中期目標においてTICAD IV(第4回アフリカ開発会議)とG8サミットの成果が充分反映されるよう、観察していかなければならない。 

  乳幼児の死亡、妊産婦の死亡、三大感染症の死亡を合計すると、1日3万人以上が亡くなっている。われわれの計算では、既存の資金に年間102億ドル(約1 兆円)追加すれば、乳幼児と妊産婦の死亡数を削減できるとみている。102億ドルというのは、世界の軍事費の2日分でしかなく、これだけで1年に約600 万人の命を救えるのだ。 

  日本がすべき政策として、ODAの総額を増やしてミレニアム開発目標の資金を捻出する方法を提案したい。世界的にも関心が高いミレニアム開発目標の資金作りは必須だ。 

  日本のODAは1997年以来減少の一途をたどり、11年前に比べて40%減額となっている。2000年までは世界一だったが、2006年実績では世界3 位、昨年は5位に落ちてしまった。国民一人当たりのODA負担額は、昨年実績でOECD/DAC加盟22カ国中20位だ。 

  世界第2位の経済大国 である日本は、ODAで世界平和に貢献するのが最良だとみなしている。自分だけ良ければいいという時代ではない。地球規模に考え、取り組み、解決しなければならない問題が集積されている状況において、財政再建という理由のみでODAを削ってしまうのは、「木を見て森を見ない」ようなものだ。日本は2011 年までODAを減額する目標を立てているが、それを実行しつづければ、ジャパン“パッシング(Passing)”を通り越し、国際社会から全く相手にされなくなるかもしれない。日本は、国力に見合った形で世界へ貢献すべきである。 

  また、日本の優れた技術を活用する手段も取り入れたい。たとえば、 政府が進めている母子手帳の普及という考え方は悪くないとしても、アフリカの非識字者の母親は使用できないという問題がある。そこで、ITといった新技術 を導入できないか。たとえば、携帯電話を利用するのもひとつの方法だ。母親が子どものケアをしたり、自分の緊急時を知らせたり、さらに、伝染病が急に発生 したときに警報したり。携帯電話を使ってこれらが可能になれば、アフリカでも受け入れられやすいだろう。そうした技術の開発に期待する。 

 食糧問 題に関しても、栄養状況の悪い子どもの吸収率は、一般にいわれているカロリーと一致するとは限らない。栄養失調の子どもにとって最も吸収力がよく、即効性 のある食品は何か。こうした研究はほとんど進んでいないが、それがいったん解明されれば、多くの子どもを救うことができる。 

 時間やお金はかかるが、こうした面で、日本の技術がもっと活用できそうだ。企業が、社会貢献も視野に入れた研究に取り組めば、実現するのではないか。 

 日本は、2000年の九州・沖縄サミットで保健医療を議題にあげ、これはサミット史上初の試みだった。そのときは感染症が議論の中心で、これがきっかけとなり、2002年に世界エイズ・結核・マラリア対策基金が設立された。このグローバルファンドのおかげで、三大感染症の取り組みが画期的に進んだ。 

 日本の指導力でこうした成果を生み出したのだから、今後も国際保健分野でリーダーシップを継続して欲しい、というのが我々の願いである。 

『日刊ベリタ』 2008年07月31日00時37分掲載