フランスの"本妻シンドローム”とは?(1999)

自分より若い女性のもとへ走った夫に対する、妻の悲しみのメッセージといえる小説『本妻(La première épouse)』が1998年4月に発売され、1年間で24万部、ベストセラー・トップ10の5位になった。夫の女好きを知りながら、夫の甘い言葉を信じ、愛しつづける従順で誠実な50代の妻が主人公。愛を維持する難しさ、夫の浮気の苦しみ、結婚の現実など、女・妻・母である主人公の生々しい感情が切々とつづられている。


作家フランソワーズ・シャンデルナゴール自身の経験をもとに、微妙な女性心理を描いた小説は、フランス女性にとって身近な問題だったようで、多くの共感を得た。


発売直後には、フランスの女性誌で、作家のインタビューや"本妻シンドローム”といった特集記事が掲載された。



幸福な家庭を守る従順な妻の悲劇は、"第一夫人”のおごりからはじまる


フランスは愛の国。女性は自由に恋愛を楽しんでいるんじゃないの?


確かに、統計だけでみると、2.5組に1組が離婚しており、結婚という形式にとらわれないユニオン・リーブル(事実婚)もあわせると、くっついたり離れたりは日常茶飯事。しかし、フランス女性が鋼鉄のような図太い神経をもっているわけではない。


夫から別れを告げられ、無気力となり、どん底に落ち、自暴自棄になり、夫を責め、自問し、後悔し、怒り、泣く…。


小説の主人公のように、本妻シンドロームに陥る女性もいるのだ。


「私はライバルに嫉妬しなかった。"第一夫人”であることに、すっかり安心しきっていた」 過剰なほどの自信…。25年連れ添った夫が突然、それまで愛人だった女性との新生活をはじめ、妻を捨てる。絶望、痛み、憎しみ、愛。残された妻は途方にくれ苦しむ。


女好きに気づきながらも、夫が私をだますなんて一度も考えたことがなく、夫のために生き、寿命と同じく長期的な愛を望み、「君は僕の人生で一番大切な女性」とささやく夫を信じつづける妻。”夫の浮気には無関心を装い、目をつぶることに慣れてしまった”妻は、”責任感の強い現代女性として、毅然としていなければならない”とがんばり、”沈黙を守り、見て見ぬふりをし、忘れようと努め、じっと耐える”。

夫が去ったことで、妻はすべてを失う。

浮気は結婚生活における必要悪なのか?

真実の愛を求め、不倫をめぐる論争でいつも白熱

そもそもフランス語に”浮気”という言葉は存在しない。一般に使われる”infidélité”は「不実」を意味する。愛を誓った相手に不実であっても、これが本気になる可能性は十分あるのだ。

夫に浮気された女性の感情は、フランス人も日本人もあまり変わらない。違いがあるとすれば、結婚に対する考え方だろう。

フランスでも、結婚は本人同士の愛情よりも、家庭を作るという意識が強かった。結婚してたくさん子どもを授かるのが最も大切なことだとされていた。

女性が自由を獲得した1968年の5月革命で、結婚の意味が大きく変化した。お互いの意志での結婚。お互いの自由を認めた関係。しかし、ここで新たな問題が生じた。相手を束縛しないのなら、浮気も自由なのか?

現実には、「ノン」と否定する人が圧倒的だ。フランスでの離婚の大きな原因は、夫か妻以外の人との恋愛関係。特に女性は夫の不貞に厳しく、離婚の7割は女性からの要求によるもの。

結婚は家庭作りのたもではなく、男女の愛が中心となった。であれば、浮気が決定的なダメージを与えるのは当然である。

「パートナーの浮気の事実をはっきり知りたい」と答えたフランス人は、1983年には46%だったが、1994年は65%に増えた。


浮気アンケート(1994年のフィガロ紙&調査会社ソフレが実施した調査)

・相手が浮気をしていると疑ったことはあるか(男女)

  ある 20%、ない 72%、無回答 8%

・相手の浮気の事実を知りたいか(男女)

  知りたい 65%、知りたくない 26%、無回答 8%


・相手が浮気していたらどうするか(複数回答、男女)

  何が起きたのか理解するために話し合う 53%

  離婚を申し出る 18%

  ケンカする 17%

  相手を取り戻そうと努力する 16%

  一時的な別れを申し出る 13%

  浮気相手と別れるよう要求する 10%

  自分も浮気する 8%

  何も言わない 5%

  無回答 10%


『VoCE』 1999年8月号


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