英国ガーデンデザイナーのデビッド・スティーブンス氏(1998年)

「やあ、いらっしゃい」

 満面の笑みで出迎えてくれたのは、ガーデンデザイナーのデビッド・スティーブンスさん。彼の自宅は、ロンドンから電車で約40分、ミルトン・キーンズからさらに車で15分ほどのところにある。

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 まわりには20軒ほどの人家しか見当たらない。「ここは、パブもショップもないんです。こういう田舎はね、英語で“ハムレット”というんですよ」 1650年に建てられた家を改装して、5年前からここに住みはじめたという。

 「4年前から6月の間だけ、庭を一般公開しています。シーズンが過ぎてしまったので、今は少し、みじめな状態だけどね」

 BBCのテレビ番組にも出演しておなじみの彼は、いたって気さくな人柄。7月のある日の午後、自らコーヒーを入れながら、さっそく庭園談義がはじまった。

コピーではない自分の庭造り

「今、日本では英国式庭園が大流行なんだってね。でも、日本には伝統的な日本庭園という、すばらしいスタイルがあるのに、どうしてなんだろう。現代の生活にマッチした日本庭園を追求したほうが、おもしろいと思うけど」

 イギリスも日本も、庭園の歴史は長い。彼は、その本来持っている伝統を無視し、ほかの様式をコピーすることに納得がいかないようだ。

 「真似をするのは感心しませんね。イギリスの庭をそっくりそのまま日本に作ろうとして、同じ植物や小物を買いそろえるなんて、おかしなこと。人はそれぞれの庭を造るべきなんです。生活環境に調和した、自分だけの庭を造ることのほうがすてきですよ」

 こう語るスティーブンスさんは、イギリス人でありながら、伝統的な英国庭園に否定的で、“コンテンポラリーガーデン”の先駆者として活躍している。

「伝統は大切ですが、そこにとどまっていてはいけないと思うのです。しかし二一世紀を目の前にしているのに、人々は50年前の庭をイギリスの庭として見に来る。建築デザインや音楽やファッションはこんなにモダンなのに、ガーデンは古典へ逆戻りしているとしか思えない。イギリスでも、モダンガーデンを理解してくれる人は少ないんですよ」

 庭も現代的に変化しなければならない――。新しいアイデアを表現する彼の庭は、いわゆる英国式のものとはかけ離れている。過去22回の受賞歴を持つ『チェルシー・フラワーショー』への今年の出典作品も独特であったようだ。

「植物を使わない、木と岩だけの庭でね。空間の利用がテーマになっています。ちょっと京都の庭に通じるものがあるかな。私のデザインは、ますますシンプルな方向へと向かっていますね」

 彼のデザインは、“ストラクチャー(構成)”という言葉で表せるだろう。たとえば、植物を用いる場合は、立体感を大切にして種類は4、5種におさえ、その代わり、ひとつの種類を100本くらい使ってボリュームを出す。100種類もの植物をカラフルに多様するという、伝統的な英国式庭園とは、まったく反対である。

 「人々が自由に旅するこの時代、デザインが“日本式”“英国式”ととどまっていられるわけがない。人間同様、デザインも動いているんですから。ほかの文化から影響を受けるのは、悪いことではありません。そこからインスピレーションを得て、オリジナルの庭を造っていけばいいのです。そう、コピーとインスピレーションはまったく違うものですね」

ガーデンデザインという仕事

 ガーデンデザイナーという職業は今でこそ広く知られているが、一般的になったのは80年代に入ってから。70年代はイギリスにも専門の学校はなかったという。スティーブンスさんは、テムズ・ポリテクニックでランドスケープ・アーキテクチャーを学び、この道に進んだ。

「建物と庭はいつも密接な関係にあるので、建築の勉強がガーデンデザインにとても役立っています。一般の人は、家、庭、植物と、別々にデザインしがちだけど、いいデザイナーはすべてトータルに考えます。だって、庭は孤立した存在ではないですからね」

 建築物と庭の関係は、デザインしていく家庭で結ばれていくのだという。

「デザインは、デザイナーのひとりよがりではなく、人のためにするもの。庭の持ち主、つまりお客さんが一番なんです。私はデザインをする場合、まずクライアントに会って、相手の考えていることを知ることからはじめます。家の壁の色やインテリア、寝室、家族、ライフスタイル、街の通りの様子など、あらゆる情報を収集しますね」

 その後に、庭を一人で歩いてみて、サイズを確認して分析する。そして思いついたアイデアのスケッチをクライアントに見せ、本格的な設計図を描き、最終的に賛成が得られたら、造園の作業にとりかかる。こうしてデザインした庭は100を超えるそうだ。

模様替えする庭、新しさの追求

 自宅と仕事場のある建物にはさまれた庭に、まさに彼のガーデン哲学が表現されている。

「ラインを意識してデザインしてあります。水が好きなので、池や流れは必ず加えますね。庭はただ観賞されるばかりではなく、実際に歩いてもらい、人をその自然環境に巻き込む目的を果たさなければと思うのです。水の流れを渡ったり、こころよい音をたてる砂利道を踏みしめたり――。異なる空間に移動する楽しみを味わうために、私は、庭も部屋のような感覚でデザインしていきます」

 そうした庭を構成する要素は、無作為に選ばれているわけではない。たとえば、枝の長い植物は、風によって美しい動きを見せる。このときに生じる音もまたきちんと計算されているのだ。そしてラベンダーなどのハーブで自然の香りを楽しむことも。

「残念なことに、人間は植物が生み出すサウンドと香りを忘れてしまいました。私にとって、カラフルな花はボーナスにしかすぎず、むしろ、美しい葉の形のほうに興味がある。夜のライトに照らされてできる影にしても、その効果を考慮していますよ。私のこの庭はね、ときどき変化させているんです。部屋の家具の位置を替える人は多いのに、庭の模様替えをする人が少ないのは不思議だと思わない?」

 ガーデンデザインのほか、テレビ番組、本の執筆、ミドルサセックス大学の講師など、多忙な毎日を送っているスティーブンスさん。アメリカ、イスラエル、南アフリカ、スリランカなど、世界各国でも活動しており、この11月にはアルゼンチンへ行く予定だ。今はやりたい仕事だけをしているので、本人はその忙しさも感じていないようだ。

「もっとも恐れているのは、同じことを繰り返すこと。私は、新しさを追求し続けたい。いつもスタート地点にいたいと思っています」

『THE CARD』 1998年10月号