市民3000人が支えた映画製作「レオニー」(2010年)

20世紀初頭、日本人との間に生まれた子をひとりで育て、異国・日本で暮らした米国人女性がいた。その名はレオニー・ギルモア。世界的彫刻家イサム・ノグチの母親である。
彼女の波乱の生涯を描いた日米合作映画「レオニー」が、今年11月、全国で封切られる。7月末には札幌で、映画のサポーターや製作関係者へのお披露目の試写会が行われた。
松井久子監督が、7年の歳月をかけて完成させた力作だ。
ドウス昌代著「イサム・ノグチ~宿命の越境者」をたまたま手にし、レオニーの“潔さ”に感銘したのがはじまりだった。主演に国際的俳優を起用し、米国と日本それぞれスタッフを分け、「サムライ・ゲイシャ」ではないハリウッド映画を。松井監督は、日本映画界の常識をくつがえす壮大な構想を練る。
製作費のめどはまったくついていなかった。これまで手がけた2作も自ら資金を集めて成し遂げた。地道に上映会を重ねることで、ファンを増やした。介護を主題にした「ユキエ」「折り梅」は、夫婦愛や家族の絆を掘り下げている。重いテーマではあるが、人々の心を動かし、観客は200万人を越えた。
「松井監督は、私たちの観たい映画を製作してくれる」
女性数人が、映画化の実現に向けて動き出す。2005年に応援団「マイレオニー」を発足。翌年から、賛同金を募るサポーターの受け付けを開始した。高松、愛知など支援の輪は各地に広がった。北海道では、1999年の女性映画祭から監督と親交のあった女性たちが「マイレオニー札幌」を立ち上げた。サポーターになった動機は人それぞれだが、7月現在までに全国で3000人以上を数える。
昨年4月のクランクインの際、ロケ地の米国にサポーターが駆けつけた。国内でも、炊き出しやエキストラ役などボランティアで応援。前例がないだけに、スタッフや俳優を驚かせた。市民の観たい映画を市民の力でかなえる。こうした製作スタイルは、「市民メディア」「パブリック・メディア」に通じ、画期的な試みといえる。市民とメディアの乖離が叫ばれるなか、映画に限らず、メディアの新しいモデルとして興味深い。
地域との連携もこの映画の特徴だ。札幌モエレ沼公園はイサム・ノグチの最後の作品。「公園シーンがラストを飾る」という松井監督の設定に、地元の期待が膨らんだ。札幌市が後援し、道内企業の出資による北海道レオニーファンドが設立された。昨年7月の札幌ロケでは、マイレオニー札幌が約130人の子どもエキストラ募集に奔走し、当日も奮闘した。また、モエレ・ファン・クラブが昼食のまかないをし、北大映画サークルの学生ボランティアなど地元住民がロケ現場を盛り上げた。
映画は、詩人ヨネ・ノグチ(中村獅童)に裏切られ、挫折を繰り返しつつも運命を受け入れ、逞しく生きるレオニーを追う。英国出身のエミリー・モーティマは、つつましやかな演技で葛藤するレオニーに迫り、ハリウッド俳優としての貫禄を示す。吉行和子、竹下景子、中村雅俊、大地康雄ら、脇を固める日本人俳優も存在感を見せつける。なによりも映像が美しい。一場面、一場面が詩趣豊かに描写されており、〝和の境地〟に引き込まれる。
物語は粛々と流れ、感動の瞬間は、観る人ごとに違う。男に翻弄されるレオニーに自らを重ね、または息子を思う母の姿に涙する。文化摩擦、男女差別、戦争などの社会の不条理に憤りを覚える人もいるだろう。メッセージは静かに奥深く、心身に刻まれていく。
鑑賞後は、誰かと語り合わずにいられない。そこで交わされる感想は実に多様だ。人生も世界も「画一」ではなく、だから素晴らしい。視界が広がり、背中をそっと押される感じがする。

『朝日新聞』 2010年8月19日 道内版「北の文化」